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千代田区神田大手町の司法書士が役に立つ話から笑い話まで☆

神田、大手町の司法書士MY法務事務所の代表が日常生活で役に立つ知識から笑える話まで気ままに綴るブログです。肩ひじ張らずに読んでってください♪

No.1 資産家女性の相続問題 ドラ娘の全面敗訴でめでたしめでたし…とはいかないんじゃないかってこと

2016.1.24(日)

平成23年に「遺産は全て家政婦に渡す」との遺言を残して亡くなった資産家女性(当時97歳)の実の娘2人が、遺言に反して遺産を不当に持ち去ったとして、家政婦の女性(68歳)から遺産の返還を求められていた訴訟につき、東京地裁が家政婦の女性の全面勝訴とする判決を下した。

との件につき、少し述べてみます。

報道によると、資産家女性が昭和59年に夫から財産を相続した時点で、その額は10億円超だったそうで、その後平成15年に「遺産は全て家政婦の女性に渡す」との遺言書を作成し、8年後の平成23年に亡くなったとのこと。

すると亡くなった当日に、実の娘2人が遺産の大半にあたる約3,000万円を自己の口座に移したということらしいです。

この約3,000万円ですが、遺言が有効だとすると1次的には家政婦に渡ることになります。しかし、娘サイドとしては、「遺言は家政婦の女性が資産家女性を騙して作成させたもので無効」、「(遺産が想像以上に少ないことから)家政婦の女性は資産家の女性の生前から資産を着服していた」と主張し、遺言は無効だから法定相続人である自分達が遺産を承継するべきとしていたようです。

法廷では、①遺言が有効か無効か、②家政婦の女性は資産家女性の財産を着服していたのか、という点が争いとなりました。

これについて、裁判所は、①につき、「遺言作成当時は介護を期待できる実の娘は移住してしまっていた。その中で長年自分を支えてきてくれた唯一の存在である女性に感謝し、全資産を譲る心境になるのは自然だ」とし、遺言は適正なものだと認定しました。②については、「使途不明金はカネ遣いの荒い実娘側に渡るなどしたと考えられる。女性による着服は認められず、推認すらできない」と断じました。

この背景には、実の娘達が資産家女性の生前から「海外に移住するため」との理由で資産家女性に対して金の無心をしていたことや、移住すると言いながらすぐに帰国し、同居していた時期には、資産家女性が財産を奪われることを危惧していたことが明らかになったなど、実の娘達が介護もせずに資産ばかりに執着していたという事情があります。

はっきり言えばこの娘達は、親の面倒も見ずに金の無心ばかりしていたドラ娘なのであって同情の余地はなく、判決は妥当なものだと思います。

 

さてさて、前置きが長くなりましたがここからが本題!

この話、実は、めでたしめでたしとはいかないんじゃないかってことです。

 

報道されていることを前提に考えてみると、娘達が移した約3,000万円は家政婦の手に渡ることになるのですが、これ、恐らく娘達は遺留分減殺請求をすることになると思います。他に兄弟姉妹がいるのか不明なので、どれくらいの割合かはともかく、実の娘となると遺留分を有しています。

この遺留分ってものはなかなかに強力で、遺言があったとしても、これに反して一定の相続人に一定の割合の相続権を保証するものです。つまり、今回のケースで言うと、娘達2人にもある程度の割合(仮に資産家女性の子がこの2人だけとすると、それぞれ4分の1)の相続権があるということになるのです。これだけ遺産に執着がある娘達のことですから、周囲にどう思われようと遺留分減殺請求を行使するのではないでしょうか。そうなると、遺産の一部は資産家女性の意思に反して娘達のもとに渡ってしまいます。

 

それでは、このような事態を避けるために、資産家女性は生前にどのような相続対策をとるべきだったのでしょうか?

 

まず、考えられるのは「遺留分の放棄」です。
これは、被相続人(今回のケースで言うと資産家女性)の生前からできるもので、「遺留分を放棄する」旨を相続人(今回のケースで言うと娘達)が家庭裁判所に申述し、許可審判がなされれば相続人は遺留分を失うという制度です。(なお、相続開始後であれば家庭裁判所の許可は不要です。)ただし、相続人が申述することを要するため、今回のケースのように相続人が遺産に執着している場合には利用は難しいでしょう。

 

次に「相続人の廃除」です。
これは遺留分を有する相続人の相続権を奪いたいときに、被相続人家庭裁判所に請求して相続権を奪う制度です。生前にもできますし、遺言でもすることができます。これをしておけば対象者の相続権を失くすことができますから、当然に遺留分も失われます。ただし、廃除には相続人に廃除事由があることが要件となります。その要件は次のとおり。

①相続人が被相続人に対して虐待をしたこと。
②相続人が被相続人に重大な侮辱を加えたこと。
③相続人にその他の著しい非行があったこと。

この内のいずれかがあるときに廃除の対象となるのですが、報道されている限りだとかなり頻繁に、しかもかなり多額の金銭を無心していた点、更に移住資金と言いながらもすぐに帰国していることから、実際には遊興費に使っていたのではないかと思えます。仮にそうだったとすれば③の要件は満たすものと考えられますから、資産家女性としては生前か遅くとも遺言にて廃除の意思を表明しておけば、全ての遺産を家政婦の女性に渡すことができたと思われます。残念ながら今回のケースではそのような対策はされていなかったようですが…。      

 

もし、廃除の3つの要件をいずれも満たさないときはどうでしょう。採り得る手段を挙げるとすれば「民事信託」があります。中でも「遺留分対抗型信託」を用います。例えば、委託者兼当初受益者を資産家女性、家政婦の女性を受託者、二次受益者を家政婦の女性及びその子、三次受益者を家政婦の女性の子とし、信託契約には「受益権は相続により承継されない」旨、「受益権は受益者の死亡によって消滅し、次順位の受益者が新たな受益権を取得する」旨を定めておきます。こうしておけば、受益権の承継は相続ではなく信託契約の効果により発生することとなり、遺留分減殺請求の対象とはなりませんから、資産家女性が亡くなったときも財産を娘達に奪われることはありません。

ただし、民事信託は新しい手法ですから、受益権の承継が遺留分減殺請求の対象とならないという点につき、はっきりとした判例がないため、ほんのわずかに法的に不安定な部分が残ります。しかし、仮に受益権が遺留分減殺請求の対象になると判断されたとしても、娘達は単に受益権の一部を得るだけですし、その一部は娘達が亡くなったときには家政婦の女性やその子に帰することになりますから、相続法のルールに依るよりは資産家女性の意思の実現に近づくでしょう。

 

最後は少し専門的で難しい話になってしまいましたが、採り得る手段の1つとして知ってもらいたいので述べました。民事信託は、その内容が千差万別であるためにここで多くをご説明することはできませんが、興味のある方は弊所ホームページの該当ページをご覧ください。

いずれにしろ、相続には様々な要因が絡みますから一筋縄ではいきません。遺言書を作成しておくことはもちろん大切なことですが、どんな場合でも遺言書作成のみで対応できるという訳ではありませんから、相続に関してご希望やご不安があるという方は是非、専門家にご相談されることをおすすめします。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
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