千代田区神田大手町の司法書士が役に立つ話から笑い話まで☆

神田、大手町の司法書士MY法務事務所の代表が日常生活で役に立つ知識から笑える話まで気ままに綴るブログです。肩ひじ張らずに読んでってください♪

No.9 葛飾区の空き家が強制代執行により撤去開始 自ら空き家対策した方が得!!

3月3日、空家対策特別措置法に基づき、葛飾区が強制代執行により空き家(70代女性所有)の撤去作業を開始しました。報道によると、対象となった空き家には30年以上誰も住んでおらず、また、老朽化がひどいため、10年前から所有者の女性に対して改善を求めてきたが、応じなかったとのこと。そのため今年1月に撤去命令を出したが、所有者女性はこれも拒み、今回の代執行に至ったということです。動画や写真を見るとかなりひどく傷んでおり、代執行に至ったのも止むを得ないところでしょう。近隣住民や通行人に大きな被害が出なかったのが幸いといったところです。

報道の内容や老朽化の様子については、リンク先をご覧ください。

www.yomiuri.co.jp

www.news24.jp

空き家については、所有者が高齢者で施設に入ったため誰も住まなくなったとか、相続したものの相続人には別に住居があるため使わないなど発生原因は様々ですが、その数は増加傾向にあり、平成25年の総務省の調査によれば、総住宅数に対する空き家の割合は13.5%となっています。空き家であってもきちんと管理や手入れがなされていればまだ良いのですが、単に放置されているものについては、安全・防犯・衛生・景観などの面で問題が生じることから、政府もこれを放置するわけにはいかず、対策を進めています。その内の1つが、昨年施行された空家対策特別措置法であり、今回の代執行の根拠もこの法律なのです。

空家対策特別措置法の概要については、こちらをご覧ください。簡単にまとめています。

www.myshiho.jp

近年、大きな社会問題となっている空き家の増加ですが、空き家がそのまま放置されている原因の1つとして、「空き家の放置は大きな不利益をもたらす」という認識がない所有者の方が多いというものがあります。もちろん、撤去や活用・管理などの空き家対策をしようとすれば、労力や費用がかかるということもありますが、根底には認識の薄さというのもあると思います。冒頭で「近隣住民や通行人に大きな被害が出なかったのが幸いといったところです。」と書いたのがまさにそれで、ここで空き家所有者の方に伝えたいのは、

空き家は労力や費用を払ってでも対策しなければ、更に大きな不利益や損害を被る可能性がありますよ!!

更に、空き家を放置するのは、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えているようなものですよ!!


ということです。労力や費用の支出は誰にとっても嫌なもの。だから後回しにしがちです。しかし、空き家を放置することには次のようなリスクが伴います。

工作物責任の問題(民法第717条1項)
例えば、空き家を放置していたところ、外壁が風で飛ばされ、通行人に当たって怪我をさせたり、死亡させたという場合には、所有者がその責任を負うことになります。今回の代執行の対象となった空き家も瓦や壁が落ちてきていたとのことですから、これが人に当たらなかったのは本当に幸いでした。ちなみに公益財団法人日本住宅総合センターの試算によると、風に飛ばされた外壁が11歳の子供に当たって死亡させた場合、その損害額は5630万円になるという試算もあります。いつ強風が吹くか、誰に当たるかなんて予想ができるわけもなく、また、「こんな強い風が吹くとは思わなかった。」といった言い訳をしても逃れることはできません。この所有者の責任は、過失が無くても責任を負わなければならない(無過失責任)からです。空き家を放置することで多額の賠償金と、人が亡くなる原因を作ったという罪を背負うことになってしまう可能性があるのです。

②火災、竹木その他近隣への被害
総務省のデータによると平成25年の総出火の内、原因の割合は、最も多い「放火」と「放火の疑い」を合計すると18.3%にも上ります。空き家は人の目につきにくく、狙われやすくなります。火災により隣家に延焼した場合でも、故意または重過失がなければ賠償責任を負わないということはよく知られていますが、見舞金等を支払うことは必要になるでしょうし、何より責任を負わないから燃えても良いということにはなりません。更に、手入れをしなければ木の枝葉は隣家に伸びていきますし、ゴミが不法投棄されれば悪臭や害虫の発生を招くことにもなります。そうなれば損害を被った近隣住民から賠償請求をされる恐れも出てきます。

③不動産価値の低下、換価可能性の低下
空き家の放置により、建物の傷みは進み、土地が荒れてしまうと、財産としての不動産の価値は低下し、売却を考えた際に不利益となります。また、荒れた土地や建物は周囲の景観を悪くし、ひどいものになると近隣住民とのトラブルの原因にもなります。また、トラブルそのものによっては賠償請求までは至らない場合でも、売却を考える際には、これに先立つ境界確定(売却の対象敷地がどこからどこまでかを確定する作業)において、普段から関係の良くない隣地所有者が協力してくれないことが大きな障害となる場合があります。

代表的な空き家放置のリスクを挙げてみましたが、いずれも大きな不利益や損害だと思いませんか?このような事態に至ると、空き家対策を施す労力や費用よりも格段に大きなそれがかかることになります。場合によっては他人の生命を脅かす危険さえあるのです。

また、行政代執行の費用は所有者に請求されることになりますが、報道によると今回の費用は185万円です。やり方によっては、同じく撤去するにしてもこれより安い金額でできた可能性もあったんじゃないかとも思います。ちなみに自治体によっては、空き家の撤去について助成金を出してくれるところもあります。撤去を考えている方は、一度助成金の有無を調べてみた方がいいですよ。

それと注意してほしいのは、動画や画像によると、今回の空き家は活用のしようがない位ボロボロでしたが、ここまで傷んでいない空き家でも、行政から「特定空家等」として指定される可能性は十分にあります。(というより、今回の事例は傷みがかなりひどいレベルであり、特定空家等に指定される基準としては、もっと傷みが少ないレベルが想定されています。)

※「特定空家等」とは、次のいずれかにあたる空家等をいうとされています。
①倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
②著しく衛生上有害となるおそれのある状態
③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態
④その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

「特定空家等」に指定されると、行政代執行の対象となるほか、固定資産税及び都市計画税の軽減特例の対象から外されます。軽減特例の対象から外れると、それまでに比べて固定資産税は6倍、都市計画税は3倍の金額で請求されることになります。ホント、空き家を放置することによってロクな事がないのです(>_<)


でもピンチはチャーンス!!って考えてみると…

放置している空き家を活用しちゃえば、危険どころか利益を生み出すことになります。例えば、まだ傷んでいなければそのままでも、少し痛んでいたとしてもリフォームして賃貸したり売却したり。相続で受け継いだ不動産の相続人が未だ決まっていないなら、この際、相続問題の解決と一緒に空き家問題も解決すれば、効率よく収益を得ることもできるでしょう。つまり、放置したままではマイナスだけど、やり方次第では大きくプラスに転じることもできるということ。今なら政府も空き家問題の解決に積極的になっています。いつか何とかしなければいけないと思いながらも放置したままになっている空き家の所有者さんには、この機会に空き家対策を施すことをおすすめします。

もう1つ、3/5(土)、東京司法書士会及び法務局共催の無料相談会「空き家110番」に参加してきました。ここに集まったメンバーの中で話題になったのが、平成28年度税制改正大綱。ここでも空き家対策の推進につながる改正が話題になりました。政府も何とか空き家問題を解決したいのでしょう。要件を満たせば、譲渡所得税について大きな控除を受けることができることになりそうです。…が、今日は堅い話が長くなってしまったので、その話は次回にします。

更に詳しい空き家対策関連情報は、弊所ホームページ内の「空き家対策(空き家問題)」のページにあります。よかったら覗いてみてくださいね!

www.myshiho.jp