千代田区神田大手町の司法書士が役に立つ話から笑い話まで☆

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No.29 判例変更! 預貯金は遺産分割の対象となります

随分と寒くなってきましたね。年の瀬ということで皆さんお忙しく過ごされているのではないでしょうか。さて、今回はタイトルのとおり、平成28年12月19日、最高裁大法廷において、「預貯金は遺産分割の対象となる」との判断が示されたことについて。従来、「預貯金は遺産分割の対象外」とされてきた訳ですが、この点、判例変更されたということで、その内容や影響について触れてみたいと思います。

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従来、相続の場面において、「金銭その他の可分債権については、遺産分割を経ずに、相続開始によって当然に各共同相続人にその相続分に応じて承継される」として扱われてきました。分割債権説とも言われる考え方ですね。

これが今回の判例変更で、預貯金についても、「預金者の死亡により口座の契約上の地位は相続人全員で共有されており、法定相続割合では当然には分割されない」、「預貯金は遺産分割の対象となる」とされたという訳です。

どういうことなのか?

例えば、遺産が自宅不動産と預貯金2,000万円だったとしましょう。遺言はなく、相続人は故人の子であるA及びBの2名だったとします。この場合に、自宅不動産はA及びBによる共有状態となり遺産分割の対象となるが、預貯金については遺産分割を経るまでもなく、相続開始と同時にA及びBがそれぞれ1,000万円ずつ取得すると考えるのが従来だったのです。

しかし、この考え方、次のような場面では問題が生じます。

遺産が預貯金2,000万円のみで遺言はなく、相続人は故人の子であるA及びBの2名とします。そして故人の生前にAのみが1,000万円の贈与を受けていたような場合、従来の考え方によると、遺産である預貯金2,000万円をA及びBが1,000万円ずつ取得することになりますが、その結果、Aは故人から計2,000万円、Bは計1,000万円を受取ることになってしまい不公平が生じてしまうのです。

この点については、「預貯金を遺産分割の対象外とすると公平な分配ができない」と、しばしば指摘されてきました。大法廷も「公平な遺産分割のためには、できる限り幅広い財産を対象とすることが望ましい」と指摘し、この度の判例変更に至ったという訳です。

よって今後は、不動産等と同様に、預貯金についても遺産分割の対象になることとなります。既に済んだ遺産分割に適用はされませんが、今後行われる遺産分割には適用されます。

ただし、ここで述べておきたいのは、従前から、相続人全員の合意により預貯金も遺産分割の対象とすることはできていたということ。(実際に弊所で相続手続をさせていただいた事案でもそうしていることがほとんどです。)円満に遺産分割が合意に至った場合はもちろん、争いがあり家庭裁判所に持ち込まれた場合でも、相続人全員の合意を得て預貯金も遺産分割の対象としてきたという経緯がありますから、現に係争中というケースはともかく、直接的に大きな影響を受ける方はそう多くないかもしれません。

気をつけなければいけない点としては、金融機関での預金の取扱いではないでしょうか。従来は、各相続人が自らの相続分にあたる部分については預金の払戻しを請求することができました。(とは言っても、金融機関が相続争いに巻き込まれるのを防ぐため、相続人全員の合意がないと払戻さないなど、各機関により独自のルールを設けているため、必ずしもすぐに払戻されるとは言えませんでしたが…。)しかし今後は、遺産分割終了までは払戻さないという取扱いをする金融機関が増えるものと予想されます。

なお、このような取扱いがされることによって、故人名義の口座から生活資金を支出していた配偶者等は、当面の生活費や葬儀費用に充てる金銭の払戻しができなくなってしまう事態が懸念されるため、現在、法制審議会において何らかの対策を検討しているようです。

今回の判例変更は実務上、既に主流となっている方法に沿うものであり、支持できるものですが、これにより当面の生活費に困る人が生じないように、関係各所には具体的な運用にも気を配ってほしいですね。

それでは今回はここまで☆
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